【税理士監修】医療法人の事業承継の流れや注意点を丁寧に解説
✔当記事はこのような方に向けて書かれています
「高齢により事業承継を検討している現経営者」
「最適な事業承継方法を行い、円滑に引継ぎをしたい方」
「親族ではなく第三者を後継者と考えている現経営者」
✔当記事を通じてお伝えすること
- 医療法人は株式会社と異なる事業承継が必要であること
- 医療法人の後継者となる人は非常に制約されていること
- 事業承継の方法は親族内か第三者承継かでいろいろと方法があること
当記事では、事業承継の方法だけでなく、気を付けるポイントや税制上の優遇措置についても解説しています。
ぜひ最後までご覧ください。
医療法人の事業承継の現状
まずは医療法人の事業承継の現状について見ていきます。
医療法人経営者の高齢化率が高くなり、事業承継の必要性が増しているからです。
- 医療法人経営者は70代が多くなっている
- 出資持分ありと持分なしの医療法人の違い
- 事業承継が進まない理由2つ
医療法人経営者は70代が多くなっている
医療法人経営者の高齢化が進展し、70代の割合が多くなっています。
現に、厚生労働省によると、70代の割合が30%を超えていることがわかります。(令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省)
医療機関の開設者や医療法人の代表者の平均年齢も、既に64歳を超えているkとからみると、更なる高齢化が懸念されます。
速やかな事業承継が望まれるところです。
出資持分ありと持分なしの医療法人の違い
医療法人2種類について見ていきましょう。
それぞれの特徴を理解しなければ、事業承継の方法が定まらないのです。
医療法人は以下の2種類。
- 出資持分あり:医療法人設立時、出資者が出資した持分の財産権・返還請求権を有し、その権利を相続・承継させることが可能な法人
- 出資持分なし:出資者に財産権がない法人
2007年4月の医療法改正から、出資持分なしの医療法人しか新たに設立できなくなりました。
ただし、2022年現在でも医療法人(社団)の総数56,774の内、出資持分ありが37,490法人と全体の約66%を占めています。(種類別医療法人数の年次推移|厚生労働省)
どちらの法人に属しているかをしっかりと把握しましょう。
事業承継が進まない理由2つ
事業承継が進まない理由としては、以下の2つが挙げられます。
- 医療法人の後継者となる人に大きな制約が伴うこと
- 依然として出資持分ありの医療法人であること
医療法人の後継者となるには、免許の有無が関係してくるので、後継者の選択肢は非常に狭まってしまうのです。
また、出資持分ありの医療法人だと次のような事態が想定されます。
- 配当は認められていないので出資持分の評価額が高くなり、相続税が巨額になる
- 親族以外の人が後継者となり出資持分を買い取る必要がある場合、資金調達等の大きな負担が伴う
そのため出資持分ありの医療法人の事業承継は、より慎重な対応が必要です。
医療法人の事業承継のスキームについて
医療法人の事業承継のハードルは高いですが、いろいろな承継方法があります。
親族内か、第三者による事業承継かで最適な方法は異なるのです。
- 親族内での事業承継3つの方法
- 第三者事業承継の4つの方法
親族内での事業承継3つの方法
親族内で事業承継をする3つの方法を見ていきます。
後継者が親族と決まっていても、事業承継方法はひとつではないのです。
- 出資持分を移転する
- 出資持分を払い戻しする
- 認定医療法人を活用する
出資持分を移転する
出資持分ありの医療法人の場合、その経営者(出資者)が後継者へ出資持分を移転する方法です。
気を付ける点としては、単に持分を移転するだけではなく、その他の社員にも後継者の事業承継へ賛同してもらわなければいけないこと。
そのうえで出資持分の移転の際、いずれかの方法を取ります。
- 相続:現経営者死亡時に移転、後継者に相続税が発生
- 贈与:現経営者が生きているうちに贈与、後継者に贈与税が発生
- 譲渡:現経営者から後継者に譲渡代金を伴う移転、基本的に所得税・住民税が発生
持分移転の場合は、どの方法が現状に見合った方法なのかよく検討しましょう。
出資持分を払戻しする
出資持分ありの医療法人の場合、経営者(出資者)が退社し払戻しを受けた後、後継者が出資して入社する方法です。
後継者が経営権を得るため、社員の入れ替えが必要です。
払戻しを受けた出資者は、得た利益について所得税の総合課税の対象となります。
出資者が重い税(所得税+住民税で55%の税率)を負う場合もある点に注意しましょう。
認定医療法人を活用する
出資持分ありの医療法人から出資持分なしの医療法人に移転する方法です。
移転すれば、出資持分に関する移転または払い戻しの作業が不要となります。
ただし、移行計画を作成し厚生労働大臣の認定も受ける必要があります。
また出資持分の放棄や定款変更を進めていきましょう。
そのため事業承継を実施する数年前から、準備を進めておいた方が無難です。
第三者事業承継の4つの方法
親族内に後継者が見つからない場合、M&Aも視野に入れた承継方法を検討してみましょう。
方法は以下の4つです。
- 出資持分を譲渡する
- 出資持分を払戻しする
- 医療法人の合併
- 事業を譲渡する
出資持分を譲渡する
出資持分ありの医療法人で、経営者の持つ出資持分を第三者に譲渡する方法です。
医療法人の存続を図りつつ、出資者本人の利益も確保できます。
ただし、提示した価格で買い手側と合意に至らないなどの理由で、すぐに売却先が見つからないことも。
交渉の際は買い手側の言い分も参考にして、互いの歩み寄りが必要です。
出資持分を払戻しする
M&Aで経営者の交代した医療法人が、前経営者の持分を買い取る方法です。
医療法人の経営が順調であれば、持分の評価額は高くなります。
そのため、先代経営者は大きな利益(みなし配当)を得られるかもしれません。
ただし大きな利益を得れば、課税される所得税も大きくなる点に注意が必要です。
医療法人の合併
合併は、両医療法人で契約を結び、統合する方法です。
吸収される医療法人の資産はもちろん、社員も移転先の法人に属することになります。
医療法人の種類により、以下のとおり社員などの同意についての条件が異なります。
- 医療法人が社団の場合:総社員の同意
- 医療法人が財団の場合:理事3分の2以上の同意
都道府県知事から合併の認可を得なければいけません。
事業を譲渡する
医療法人の事業用資産の全部または一部を、第三者へ売却する方法です。
出資持分が対象になるのではなく、医療法人の使用中の財産・資産、債務が譲渡対象です。
合併よりも譲渡のハードルは高くはないものの、交渉次第で従業員の地位等が譲渡対象になる場合もあります。
譲渡内容によっては、社員・従業員からの反発を招く事態が想定されます。
医療法人の事業承継における2つの注意点
医療法人の事業承継における注意点を見ていきましょう。
医療法人は、一般的な法人と異なり税制上の優遇制度に制約が設けられているのです。
- 事業承継税制は適用されない
- 認定医療法人制度の検討を
事業承継税制は適用されない
医療法人は事業承継税制を利用できないので注意が必要です。
利用できない理由は、出資持分ありの医療法人が以前として多く、この法人のままだと持分をどうするかで揉め、承継の進まないケースが数多く発生しているからと考えられます。
事業承継税制は後継者に事業承継を行う際、贈与税・相続税が猶予・免除される制度です。
政府は認定医療法人制度を活用させ、持分なしに移行させたい狙いがあるのです。
認定医療法人制度の検討を
認定医療法人に移行すれば、承継の際の出資持分に関する調整のほか、同族経営の維持、みなし贈与税の課税が回避できます。
出資持分ありの医療法人が本制度を利用し、持分なしに移行する流れは次の通りです。
- 持分なし医療法人へ移行する検討体制の整備:検討委員会・担当理事の選任等
- 移行の検討作業:法人資産の評価、移行スケジュール策定
- 医療法人関係者へ事前説明:説明と持分放棄の意向確認等
- 社員総会で議決
- 認定手続き:移行計画に関する書類を厚生労働省に提出
- 厚生労働省から認可を得る
- 実施状況報告:認定医療法人になった場合、3ヶ月以内に状況を厚生労働省へ報告
準備開始から認可を受けるまで、長期間を要する場合があります。
医療法人の事業承継で成功するためのポイント3つ
医療法人の事業承継を円滑に進める場合、押さえておくべきポイントがあります。
後継者になる人が限られる分、慎重な検討が求められます。
- 事業承継のための準備を整える
- 事業承継の計画を立てる
- 後継者の候補を選定する
事業承継のための準備を整える
まずは事業承継をどう進めるべきか、医療法人の現状に合わせた方法を考慮する必要があります。
検討の際、主に次の事柄を整理しましょう。
- 後継者の有無:親族に最適な人がいなければ第三者への譲渡を検討
- 出資ありか出資なしの医療法人か:出資ありなら認定医療法人への移行を検討
- 経営状態の把握:赤字経営だとM&Aを行う場合、買い手がつかない可能性もある
- 承継した際、どんな税金がかかるか:承継方法の違いで相続税・贈与税・所得税いずれを納付するのか、税額の把握
医療法人の現状を把握し、どのような承継方法が合っているのかを検討します。
事業承継の計画を立てる
医療法人の現状を把握後、どのように事業承継するのか計画を立てます。
計画をたてることで、もめごとを最小限に抑えて、取り入れる優遇措置などを検討しやすくするのです。
- 何歳まで事業承継するのか
- 事業承継のタイミング:後継者の才覚が他社や従業員に認められたとき、承継しても良い第三者が見つかったとき等
- どういう形で経営の継続を図るか:出資持分の譲渡、合併、事業譲渡等の具体的な方法を選択
- 事業承継方法の具体的スケジュールの策定:どのような方法をとり、どのくらいの期間で達成したいかを定める
後継者の候補を選定する
親族の誰かが、既に医師・歯科医師免許を持ち医療法人で働いているなら、早い段階で後継者になるための育成を図りましょう。
医療現場で経験を積ませ、ほかの医療従事者等に認められるまで手助けする方法が有効です。
また、勤務している医師の中に有望な人材がいれば、数人候補者を選定し、その中から後継者を選ぶ方法もあります。
まとめ:医療法人の事業承継では、早めに準備をおこなおう
当記事の内容をまとめます。
- 事業承継をする際、後継者は非常に限定されている
- 事業承継の方法は出資持分の移転や合併等さまざまある
- 事業承継を支援する税制上の優遇措置もある
医療法人は一般的な株式会社とは違います。
また社会的に勧められている方法も、経営者のお考えに合わないこともあるでしょう。現状と希望をしっかりとすり合わせて、最善の策を練ることをおすすめします。