バイアウトとは?現役税理士が伝えるその目的や成功のための手法
✔当記事はこのような方に向けて書かれています
「会社経営が悪化しているけれど、何とか経営を継続したい」
「後継者不在で困っているが、自社内で事業承継を行いたい」
「売却を検討しているが、自社と全く関係のない会社から買収されたくない」
✔当記事を通じてお伝えすること
- バイアウトは他社資本を利用しなくても、経営者または従業員が自社を買収できる
- 事業の継続・後継者不在・資金調達それぞれの目的に応じたバイアウトが可能
- バイアウトを活用すれば、新しい発想・サービスを展開する機会が得られる
当記事では、バイアウトのメリットだけでなく、バイアウトを活用したいときどこに相談するべきかまでご理解いただけます。
ぜひ最後までご覧ください。
バイアウトとは?

バイアウトは、M&A手法のひとつです。
バイアウトにより、対象企業の経営権が取得できます。
- バイアウトとは
- バイアウトのメリット
- イグジットするならIPOよりバイアウトがおすすめ
- バイアウトしやすい事業とは?
バイアウトは会社経営権の取得を目的とした買収方法
バイアウトは買い手の収益拡大、売り手の経営再建などが目的で実施される方法です。
バイアウトにより、対象会社の株式の過半数以上を買い取り、経営権を取得します。
バイアウトは、主に以下のような目的で利用されています。
- 経営不振に陥っている企業の事業再生
- 後継者への円滑な事業引継ぎ
- スタートアップ企業のイグジットの一手段として
以前の会社買収は経営不振の企業を乗っ取り、安く買い叩くというようなネガティブなイメージがありました。
しかし今では、バイアウトを利用し、他社が株式を買い取ったり、自社の経営者や従業員が買い取り会社再建を図ったりする方法として認められてきているのです。
バイアウトをする買い手・売り手のメリット
バイアウトをする買い手・売り手それぞれのメリットをご紹介します。
バイアウトが成功すれば、買い手も売り手もWin-Winの関係となるからです。
- 買い手は事業の拡大が期待できる
- 売り手は迅速な資金調達とシナジー効果が期待できる
買い手は事業の拡大が期待できる
買い手にとってのメリットとして、事業の拡大が期待できることが挙げられます。
なぜ事業拡大に期待できるのかというと、売り手の有する経営資源を有効活用できるからです。
売り手の有する経営資源としては以下のようなものがあります。
- 売り手の事業分野におけるノウハウ
- 売り手独自の技術
- 人材の確保
他企業の経営権を獲得することで、国内外の他企業との競争にスピード感を持って対応できるのです。
売り手は迅速な資金調達とシナジー効果が期待できる
バイアウトを利用すれば、迅速な資金調達ができます。
なぜなら、買い手さえ見つかれば即座に交渉を開始・売却することが可能だからです。
それと引き換えに経営権の移譲は必要ですが、潤沢な資金を得て速やかに経営の立て直しがおこなえます。
また、売り手がベンチャー企業なら、買い手企業からの人的・技術的・財政的支援を継続的に受け、そのシナジー効果で自社の成長も期待できるのです。
イグジットするならIPOよりバイアウト?
会社の経営者からは、IPOよりもバイアウトによるイグジットがより多く選択されてきました。
なぜなら、バイアウトの方が、迅速で確実だから。
具体的には、株式公開であるIPOには以下のようなデメリットがあるのです。
- IPOの監査の通過までに多くの時間と労力がかかる
- 株式公開までする事業へ成長させるには多額の費用を要する
対して、バイアウトでは以下のようなメリットがあります。
- 短期間(概ね数か月)で売却可能
- 保有株の一括売却が容易
- 上場コストが不要なので、利益が大きくなり評価額もあがる
- 上場しても事業の数値等の開示は不要
バイアウトは、イグジットと比較して、迅速でより確実な手法として認識されてきています。
バイアウトしやすい事業はある?
ベンチャー企業がイグジットのために、バイアウトを積極的に活用するケースが目立ち始めました。
ベンチャー企業の経営者(売り手)には次の利点があるからです。
- 新技術の開発や新しいビジネスモデルを確立したベンチャーは買い手から高く評価れ、潤沢な売却資金を得られる
- 売却資金の活用で新たなベンチャーを起業する等、柔軟な経営・成長戦略を実施できる
バイアウトを成功させれば、スタートアップを支援する投資会社「ベンチャーキャピタル」からの信頼も高まり、その後の資金調達が容易になる等、起業家として立ち回りやすくなる効果が期待できます。
そのため最初からバイアウトを目的に、ベンチャー企業を立ち上げる起業家も多いです。
バイアウトの種類と特徴について

バイアウトはその目的に合わせ、次の4種類の方法があります。
- マネジメント・バイアウト(MBO)
- エンプロイー・バイアウト(EBO)
- レバレッジド・バイアウト(LBO)
- マネジメント・エンプロイー・バイアウト(MEBO)
それぞれの特徴や利点、利用の際に把握しておくべき点を見ていきましょう。
マネジメント・バイアウト(MBO)の特徴とメリット・デメリット
自社の経営陣が後継者として、株主から株式を買い取る方法です。
MBOの流れは次の通りです。
- 経営陣が特別目的会社(SPC)を設立:買い手の受け皿となる会社として機能する
- 特別目的会社がMBOのための資金調達を実施:主に金融機関・投資ファンドから借り入れ
- 特別目的会社が株式を買い取る
- 株式を買収した企業の子会社化
- 特別目的会社と子会社を合併させる
この方法なら経営権が社外へ移らず事業の継続性は担保され、事業単位のMBOならば事業の独立性も高められます。
一方、経営陣の変化がなく企業の体制はあまり変化しない他、既存の株主から反発を招きバイアウトがなかなか進まないリスクも把握しておきましょう。
エンプロイー・バイアウト(EBO)の特徴とメリット・デメリット
従業員が後継者として自社の株式を買い取り、経営権を取得する方法です。
EBOの流れは次の通りです。
- 従業員が特別目的会社(SPC)を設立
- 特別目的会社がEBOのための資金調達を実施
- 特別目的会社が株式を買い取る
- 株式を買収した企業の子会社化
- 特別目的会社と子会社を合併させる
この方法をとれば後継者不在の問題が解決でき、社内でも優秀な従業員に事業が承継されるので企業再生の可能性も高まります。
ただし、従業員が株式取得できるだけの資金を用意するのは、現実的にとても困難です。
この場合、金融機関等からの借り入れで対応していけるものの、その審査は厳しく利用を拒否されるリスクも把握しておきましょう。
レバレッジド・バイアウト(LBO)の特徴とメリット・デメリット
第三者である買い手企業の資本を利用し、売り手企業の経営資産・キャッシュフローを担保に、買収を行う方法です。
LBOの流れは次の通りです。
- 買収をしたい企業が特別目的会社(SPC)を設立
- 特別目的会社がLBOのための資金調達を実施
- 売り手企業の資産価値等を調査・評価し買収
- 株式を買収した企業の子会社化
- 特別目的会社と子会社を合併させる
買収する側の企業は金融機関等から借り入れができるため、少ない投資で大きなリターンを得られ、利息返済額の損金算入が可能なので節税効果を期待できます。
ただし、買収後の経営がなかなか軌道に乗らず収益性の低下により、投資額以上のリターンが得れないケースもあるので注意しましょう。
マネジメント・エンプロイー・バイアウト(MEBO)の特徴とメリット・デメリット
自社の経営陣と従業員がともに、自社や事業の一部を買収する方法です。
MEBOの流れは次の通りです。
- 経営陣が特別目的会社(SPC)を設立
- 経営陣・従業員がMEBOのため資金調達を実施
- 特別目的会社が株式を買い取る
- 株式を取得し子会社化する
- 特別目的会社と子会社を合併させる
自社の業績が向上すると、経営者・従業員ともに金銭的なメリットを受けられます。
また、株主の意向に左右されず独立した自社経営も可能です。
ただし、従業員も自社株の買取りを要するので、株式の購入を希望する従業員が少なければ、実現が非常に難しい方法といえます。
バイアウトをする際の注意点

ここでは、バイアウトをする際の注意点をご紹介します。
自社の経営者または従業員以外の買い手企業から買収される場合、買収される側の希望が通らない事態が想定されるからです。
- 役員や従業員の扱いについて買い手と交渉する
- 株式保有をきちんと明確にする
- 買い手の要求も必ず確認する
買収される側の役員・従業員が困惑しないよう、慎重にバイアウトを進めましょう。
役員や従業員の扱いについて買い手と交渉する
売り手側の役員・従業員の処遇等を買い手側としっかり交渉する必要があります。
買収により、従業員等の雇用関係に重大な影響が出るわけではありませんが、他の企業が買い手だった場合、人事や処遇が買収前より不利となる可能性があるからです。
役員に雇用契約はないので、買い手の意向で解雇される事態も考えられます。
次のような事項を買い手側としっかりと話し合いましょう。
- 買収後の役員・従業員の処遇
- 買収後の役員・従業員の出向の有無
- 従業員が買収後も同じ条件で勤務できるか
売り手・買い手の交渉の際に、これらの対応を明らかにしておかないと、双方の役員・従業員間で深刻なトラブルが発生するおそれもあります。
株式保有をきちんと明確にする
売り手側の経営者が株式保有を希望するなら、どのくらい保有するかを明確に決めておきましょう。
なぜならバイアウトでは、買い手企業へ全株式を譲渡し、売り手は完全子会社になるのが一般的だからです。
ただし、ある程度支配力の維持を目的とし、株式の一部を売り手側の経営者に残すケースがあるのも事実。
買い手側の意向を聞きつつ、どのくらいの株主保有なら買い手側の支障とならないか、事前に双方が話し合い保有数に合意しておきましょう。
株式の一部を残しておきたいならば、買い手側と交渉し、どのくらい株式を保有するか事前に明確化しておきましょう。
買い手の要求も必ず確認する
交渉の際は買主の要求も必ず確認します。
バイアウトは、売り手企業の救済のための慈善的活動ではありません。
そのため、交渉の際は買い手の事業拡大等に必要な要求を売り手へおこないます。
買い手が求める条件によっては、売り手側の役員・従業員の反発もあるでしょう。
交渉の早い段階で買い手側の希望を聞き、その要求が実現可能かを自社内でよく協議すべきです。
バイアウトファンドと専門家の活用が成功のポイント

バイアウトの相談先をご紹介します。
何も知らずに進めても、さまざまなトラブルが懸念されるからです。
- バイアウトファンド
- 専門家
バイアウトの成功のために役立つサービスを見ていきましょう。
バイアウトファンドは投資先を支援するファンド
バイアウトを成功させるには「バイアウトファンド」を活用できます。
バイアウトファンドは、投資家から集めた資金で株式を取得、投資先の経営に関与し、株式価値を向上させられるからです。
また、次の対応も行ってくれる場合があります。
- リスクマネーの供給
- 経営メンバーの派遣
さまざまなノウハウを提供してくれるので、円滑に買収の手続きが進められるはずです。
バイアウトするならまず専門家に相談を
バイアウトを実施する前にM&A仲介会社等へ相談してみるのも良いでしょう。
M&A仲介会社にはバイアウトを経験したスタッフも数多く在籍しているはずです。
バイアウトの成功までに多くのプロセスを経なければいけません。
- バイアウトをどのような方法で進めるのか、条件の整理
- 弁護士や会計士等に法的な手続きを依頼する
- 相手方と交渉する
- 契約書を取り交わす
これらの調整やアドバイスも、専門の仲介会社等が対応してくれます。
仲介会社に依頼すれば、相談料・中間金・成功報酬等が発生するものの、専門的なノウハウを駆使しサポートしてくれるので、非常に頼もしい存在です。
まとめ:バイアウトは事業承継時にも検討できる手法

当記事の内容をまとめます。
- バイアウトを活用すれば、自社のさらなる成長効果が期待できる
- 企業の目的に応じたベストなバイアウトの方法を利用するべき
- バイアウトにはデメリットもあり、こちらも十分把握しておくことが必要
バイアウトは、M&A手法のひとつです。
メリットやデメリットをしっかりと理解したうえで臨めば、メリットも多い手法といえます。
注意点を守りつつ、正しくM&Aや事業承継に臨みましょう。