個人事業主の事業譲渡の方法や流れ、注意点を税理士が徹底解説
✔当記事はこのような方に向けて書かれています
「個人事業主としての事業は譲渡できるのだろうか?」
「事業譲渡の方法ってが知りたい」
「事業譲渡における注意点を教えてほしい」
✔当記事を通じてお伝えすること
- 個人事業主の定義
- 事業譲渡方法
- 事業譲渡の流れ
当記事では、個人事業主の方が事業を譲渡する際の流れやその方法についてだけでなく、注意すべき点まで丁寧に解説しています。
ぜひ最後までご覧ください。
個人事業主の定義
同じ業種でも、個人事業主と法人とではさまざまな部分が異なります。
- 個人事業主とは?
- 個人事業主と法人との違い
個人事業主の定義や、個人事業主と法人との違いを解説します。
個人事業主とは?
法人化せず、個人で事業を営んでいる人を個人事業主といいます。
たとえば、株式会社や合同会社などの法人格を有さず、屋号だけで商売をしている人や個人事務所などが該当します。
個人事業主と法人との違い
個人事業主と法人の違いは、設立時の手続きや納める税金、信用面などです。
個人事業主は税務署に開業届を提出すれば済みますが、法人の場合は法務局に会社設立登記を申請しなければなりません。
納める税金については以下のとおりです。
法人
- 消費税
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
個人事業主
- 消費税
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
このように、個人事業主と法人とでは納める税金が異なります。
また、信用面においては、個人事業主よりも法人のほうが社会的に信用を得られやすい傾向にあります。
個人事業主の事業譲渡方法3選
個人事業主が事業譲渡する方法は、株式が存在しないことから法人の場合ほど多くありません。
ここでは、個人事業主が事業譲渡する方法を3つ紹介します。
- 贈与による事業譲渡
- M&Aによる事業譲渡
- 相続による事業譲渡
贈与による事業譲渡
贈与による事業譲渡は、無償で事業を譲渡し、経営権や事業資産を譲ること。
贈与の場合、相手は親族・第三者問わず実施できます。
しかし、贈与税がかかる点には注意が必要です。
贈与税は事業資産の金額に応じて10%〜55%の範囲で発生し、贈与を受ける側が支払います。
贈与税が高額になる可能性があるため、事前にどの程度贈与税がかかるのかを考慮して選択することをおすすめします。
M&Aによる事業譲渡
M&Aによって、第三者である会社や個人に事業譲渡する方法もあります。
M&Aの場合は売買のための費用がかかりますが、買収の際に買い手が支払う消費税以外の税金がかかりません。
贈与や相続の場合と異なり、売り手の手元にまとまった金額が入るため、売り手にとってもメリットが大きい方法です。
これを機に引退を考えている場合も、手元に大きなお金が残っていると心強いでしょう。
相続による事業譲渡
事業は相続によっても譲渡できます。
売買のように譲渡の際に費用がかかることはありませんが、相続税が課せられます。
相続税の税率も贈与税と同様に10%〜55%と定められていますが、贈与税よりも安く済むことが多く、その点はメリットといえるでしょう。
しかし、いつでも実行できる贈与とは異なり、個人事業主が死亡したタイミングでしか受け継げないため、それ以前に譲渡をしたい場合は別の方法を考えなくてはなりません。
【個人事業主版】事業譲渡の流れ
事業譲渡するには手順があります。
ここでは、譲渡する側と授受する側の流れについて解説します。
- 譲渡する場合の流れ
- 授受する場合の流れ
譲渡する場合の流れ
まずは譲渡する側がするべき手続きを、順を追って解説します。
- 廃業を届け出る
- 青色申告を取りやめる
- 事業廃止の届け出をする
- 所得税等の減額を申請する
- 取引先・関係者へ通知する
廃業を届け出る
事業譲渡すると決まったら、管轄の税務署に廃業届を提出します。
廃業届を提出しなければ、事業が終了したことにならないためです。
廃業届は、都道府県税事務所にも同じように提出します。
書類については「個人事業の開業・廃業等届出書」という様式が税務署で入手できるほか、国税庁のホームページでダウンロードできるため、それを使用するとよいでしょう。
書き方や期限については行政によって異なるので、事前に確認が必要です。
青色申告を取りやめる
青色申告をしている場合は青色申告を取りやめなければなりません。
「所得税の青色申告の取りやめ届出書」という様式が税務署で手に入るほか、国税庁のホームページにてダウンロードできるため、必要事項を記入して管轄の税務署に提出しましょう。
事業廃止の届け出をする
消費税の課税事業者としての登録がある場合は「事業廃止届出書」の提出が必要です。
管轄の税務署に届け出ましょう。
提出期限についてはとくに明示されていませんが、廃業届と同じタイミングで提出してください。
所得税等の減額を申請する
廃業により納税が厳しい場合は、所得税等の減額が申請できます。
「所得税及び復興特別税の予定納税額の減額申請書」を管轄の税務署に提出します。
提出期限があるため、期限内に提出しなければならないことを覚えておきましょう。
- 第1期分及び第2期分の減額申請:その年の7月1日〜7月15日
- 第2期分のみの減額申請及び特別農業所得者の減額申請:その年の11月1日〜11月15日
取引先・関係者へ通知する
事業を譲渡するための手続きが完了したら、取引先や関係者にその旨を通知しましょう。
個人事業の場合、この人だから取引を続けてきたというような、事業主の人柄や人間関係による取引が多いためです。
取引先や関係者への説明もなしに譲渡してしまうと、譲渡する側だけでなく授受する側の印象も悪くなってしまいます。
授受する側がスムーズなスタートをきるためにも、取引先や関係者には通知しておくべきです。
授受する場合の流れ
続いて、授受する側がするべき手続きを、順を追って解説します。
- 開業届を提出する
- 青色申告を申請する
- 商号を引き継ぐ
- 商号を引き継ぐ
- 許認可を申請する
開業届を提出する
事業を授受する場合は、まず開業届を提出します。
「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署または国税庁のホームページからダウンロードし、管轄の税務署に届け出てください。
開業届は、事業開始から1か月以内に提出しなければなりません。
それまでに提出できるよう準備しましょう。
青色申告を申請する
開業届を提出する際、一緒に青色申告も申請するとよいでしょう。
青色申告を申請すれば、確定申告の際に特別控除や繰越控除をおこなえます。
白色申告よりも手間がかかりますが、税金面のメリットを考慮すると、青色申告のほうが得られるメリットが豊富です。
「所得税の青色申告承認申請書」という様式が税務署の窓口または国税庁のホームページからダウンロードできるため、必要事項を記入し提出しましょう。
商号を引き継ぐ
商号を引き継ぐ場合は、引き継ぐ商号を開業届に記載します。
特別な様式があるわけではなく、それだけで事足ります。
法人であれば同一の所在地で同一の商号が使えないという問題がありますが、個人事業であれば気にする必要はありません。
許認可を申請する
許認可が必要な業種の場合、許認可の申請が必要です。
許認可の類は事業譲渡では引き継がれないためです。
許認可の種類にもよりますが、中には許可を取得するために数か月かかるものや、許可の要件が厳しいものもあります。
事業譲渡をしてから要件がないことに気づくのでは遅いため、事前に管轄の行政機関に相談し、許可の見込みがあるのかどうかを調べておいたほうがよいでしょう。
事業譲渡をおこなう際の注意点5選
事業譲渡をおこなう際に注意したいポイントが5つあります。
順番に紹介します。
- 資産の引継ぎ
- 取引先からの理解
- 従業員への通知
- 自己破産のタイミング
- 専門家に依頼
資産の引継ぎ
店舗や事務所などの資産をどのように引き継ぐかについて、注意する必要があります。
店舗や事務所を買い取る場合はその分の資金も必要です。
多くの場合、資金が足りなければ賃貸借契約や使用貸借契約を検討します。
賃貸借契約には金銭が発生しますが、使用貸借契約は無償です。
親子であれば、使用貸借で引き継ぐことが多い傾向にあります。
取引先からの理解
事業譲渡の際は、取引先からの理解を得なければなりません。
取引先それぞれに説明する必要があるでしょう。
今後も取引を続けてもらえるかどうかによって、授受した側の今後が左右される可能性があります。
従業員への通知
従業員への通知が必要なことも覚えておきましょう。
事業譲渡すれば、従業員の雇用契約も承継されるためです。
従業員それぞれに通知するとともに、雇用契約を引き継ぐことについて本人から同意を得なければなりません。
自己破産のタイミング
自己破産を考えている場合は、そのタイミングに注意しなければなりません。
自己破産後や自己破産直前に事業譲渡をおこなう場合、事業譲渡契約の内容次第では事業譲渡が認められない可能性があるためです。
また、取得を予定している許認可の中には、自己破産者であることが欠格事由に該当し、許可が取得できないケースもあります。
そのため、今後を見越して慎重に考える必要があります。
専門家に依頼
事業譲渡をおこなう際は、弁護士などの専門家に依頼することも検討しましょう。
事業譲渡の手続きは、専門家に頼らずとも可能です。
しかし、専門的な知識や経験を持つ専門家に相談しながら進めることで、素人が見落としがちなミスを減らせます。
また、専門家がサポートしてくれることで安心感も得られるでしょう。
まとめ:
当記事の内容をまとめます。
- 個人事業主は、法人化をせず、事業を営む個人のこと
- 個人事業主の事業譲渡方法は主に3つ
- 個人事業主が事業譲渡をおこなう際には気をつけなければならないポイントがある
個人事業主の事業譲渡は今後ますます増えることが予測できます。
ただしその手順を間違えると、適切な金額でなかったり、周りから理解が得られなかったりしてしまうでしょう。
ぜひ信頼できる専門家に相談して下さい。
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