事業承継税制とは?メリット・デメリットやその適用条件について解説
✔当記事はこのような方に向けて書かれています
「税金を気にせずに事業承継をすすめたい」
「事業承継を決めたが税金の猶予や免除が欲しい」
「後継者の納税の負担を何とか抑えたい」
✔当記事を通じてお伝えすること
- 事業承継制度について
- 事業承継税制のメリット・デメリット
- 事業承継税制の適用条件
当記事では、事業承継税制の特徴だけでなく、本税制が認められた後の対応までご理解いただけます。
ぜひ最後までご覧ください。
事業承継税制は2種類ある
こちらでは2種類ある事業承継税制についてご紹介します。
一定の条件へ合致すれば、とても有利な税制上の優遇措置が得られます。
- 一般事業承継税制について
- 特例事業承継税制について
一般事業承継税制について
一般事業承継税制は、事前の計画策定が不要で適用期限の制約もない事業承継税制です。
猶予の内容は次の通りです。
- 納税猶予の割合:贈与なら100%、相続なら80%
- 猶予対象となる非上場株式等:総株式数の最大3分の2
なお、会社の倒産や先代経営者の死亡等があった場合、猶予されていた贈与税・相続税は免除されます。
特例事業承継税制について
事業承継をより促進するため、特例事業承継税制も設けられています。
本特例では、事前の計画策定の必要性や適用期限の制約もありますが、大幅に猶予措置が強化されています。
- 納税猶予の割合:贈与・相続を問わず100%
- 猶予対象:全株式
また、後継者は最大3人まで承継可能です(一般:1名のみ)。
納税免除になるのは、会社の倒産や先代経営者の死亡等に加え次のケースも該当します。
- 過去3年間で2年以上赤字・売上減
- 有利子負債が売上6か月分より多い
- 心身の故障等で後継者の事業継続が困難 等
このような場合には一定額の税額免除が適用可能です。
事業承継税制のメリット・デメリット
こちらでは、事業承継税制のメリット・デメリットについてご紹介します。
納税が猶予され安心して後継者に引き継げる反面、取り消しもあり得るというデメリットに注意しなければいけません。
- メリットは大幅な優遇措置で後継者に安心して引き継げること
- デメリットは手続きが煩雑で取り消しの可能性もあること
メリットは大幅な優遇措置で後継者に安心して引き継げること
100%の猶予のほか、ケースによっては免除もあり得る点が大きなメリットといえます。
- 最大100%の納税猶予
- 一定の条件に合致すれば納税免除もある
最大100%の納税猶予
メリットのひとつとして、最大100%で納税猶予されることが挙げられます。
2種類の制度では、以下のような猶予割合となるからです。
- 一般事業承継税制:贈与100%・相続80%
- 特例の場合は贈与・相続とも100%
猶予の継続には最初の5年間は毎年、その後3年おきに報告・届出が必要です。
基本的に取消事由に該当したり報告・届出を怠ったりしなければ、長期にわたり多額の納税が猶予される仕組みです。
一定の条件に合致すれば納税免除もある
さらなるメリットとしては猶予ばかりでなく、やむを得ない事態が発生した場合、猶予された税金の全額または一部が免除されます。
主に次のケースが免除事由です。
- 先代経営者等が死亡
- 後継者が死亡
- (特例)会社代表権を有しなくなった日以後や経営贈与承継期間の経過後、「免除対象贈与(※)」をした
- (特例)経営贈与承継期間の経過後、会社の破産手続開始決定や、事業継続困難な事由が生じ会社を譲渡・ 解散した
※免除対象贈与:現在猶予を受けている後継者が、株式等を更に次の後継者へ贈与し、贈与された後継者が納税猶予を受けるための贈与です。
デメリットは手続きが煩雑で取り消しの可能性もあること
申請方法は複雑で、適用が取り消しとなる場合もある点はデメリットです。
- 申請方法は非常に複雑
- 本税制が適用された後に取り消しとなる場合も
申請方法は非常に複雑
デメリットは申請方法が非常に複雑である点です。
なぜなら、特例事業承継税制の適用を望む場合、後継者が誰か・承継時までの経営見通し等を記載した 「特例承継計画」の策定が必要です。
策定後は認定経営革新等支援機関の所見を記載後、更に都道府県知事へ提出し確認を受けなければいけません。
本税制が適用された後に取り消しとなる場合も
デメリットは適用後に取り消される場合がある点です。
- 継続届出書を提出しない
- 免除対象贈与以外の非上場株式の譲渡をした
- 後継者が代表権を失う 等
取消事由に該当すれば納税猶予が取り消されてしまいます。
そのため、本特例を利用したいなら、たとえ猶予期間も緊張感を維持する必要があります。
取消リスクは制度を利用する限り、それこそ一生続くことになるでしょう。
継続のための手続きが過剰な負担となる場合、納税も視野に再考した方が良いです。
事業承継税制の適用要件は3つ
こちらでは、適用要件についてご紹介します。
会社・後継者・先代経営者いずれも定められた要件に該当しなければいけません。
- 会社の適用要件
- 後継者の適用要件
- 先代経営者の適用要件
会社の適用要件
中小企業者のみに適用される優遇措置なので、基本的に非上場会社であることが必要です。
更に該当する会社以外であることが必要です。
- 上場会社
- 中小企業者に該当しない会社
- 風俗営業会社(性風俗)
- 資産管理会社
なお、資産管理会社とは不動産や現金・預金等の資産保有割合が総資産総額の7割以上、またはこれらの資産の運用収入が総収入金額の7割5分以上の会社を指します。
後継者の適用要件
後継者なら誰でも適用されるわけではありません。
次のように要件が限定されています。
- 代表権がある
- 18歳以上
- 役員の就任から3年以上経過
- 後継者・後継者と特別の関係がある人(例:親族等)で、総議決権数の5割を超える議決権数がある
なお、特例を希望する場合は次の要件も加わります。
- 後継者が1人:後継者・親族等の中で最も多く議決権数を保有
- 後継者が2人か3人:総議決権数の1割以上を保有、かつ親族等の中で最も多くの議決権数を保有
先代経営者の適用要件
先代経営者の場合は次の要件が必要です。
- 会社の代表権を有していた
- 贈与の直前に贈与者・贈与者の親族等で、総議決権数の5割を超える議決権数があり、後継者を除き最も多くの議決権数を保有
- 贈与時には代表権を有していない
既に後継者へ会社を託している状態でないと、要件に該当しないので注意しましょう。
事業承継税制の申請方法について
こちらでは申請方法についてご紹介します。
特に特例事業承継税制は期限が決められており、申請に注意が必要です。
- 申請先は中小企業庁ではなく都道府県
- 特例事業承継税制は特例承継計画の作成を
- 事業承継税制の必要書類
申請先は中小企業庁ではなく都道府県
本税制は中小企業を応援する措置ですが、申請先は会社の主たる事務所が所在する都道府県となります。
各都道府県の主に「中小企業課」や「中小企業支援室」と呼ばれる窓口で対応しています。
なお、都道府県から認定されたら、贈与ならその年の翌年3⽉15⽇まで、相続なら相続開始⽇の翌⽇から10ヶ月以内に税務署へ申告しましょう。
特例事業承継税制は特例承継計画の作成を
特例を利用したい場合、本税制の申請前に計画を策定しなければいけません。
記載しなければいけない項目は多岐にわたります。
- 主たる事業内容
- 資本金額や出資の総額
- 常時使用する従業員数
- 先代経営者・後継者について
- 株式の承継時期(予定)
- 当該時期までの経営上の課題・対応策
- 株式等承継後5年間の経営計画
策定後、認定経営⾰新等⽀援機関から所⾒を記載してもらい(例:指導・助言の内容等)、都道府県へ提出する必要があります。
計画の策定には期限があり、2024年3⽉31⽇までに提出します。
事業承継税制の必要書類
事業承継税制を申請する際は、まず必要書類の収集を行います。
一般で申請するか、特例で申請するかで必要書類も異なってきます。
- 共通の必要書類
- 一般事業承継税制の必要書類
- 特定事業承継税制の必要書類
共通の必要書類
認定申請書はもちろん定款の写し等は必ず提出します。
- 認定申請書(原本・写し:各1部)
- 登記事項証明書
- 従業員数証明書
- 定款の写し
- 株主名簿の写し
- 誓約書
なお、誓約書とは上場企業でない、性風俗の会社等でない旨を明示する書類です。
一般事業承継税制の必要書類
承継を贈与で行うのか、相続で行うのかで収集する書類は異なります。
贈与の場合は次の書類を準備します。
- 贈与認定申請基準年度の決算書類
- 贈与契約書・贈与税額の見込み額を記載した書類
- 贈与者・受贈者・その他の一定の親族の戸籍謄本等
相続の場合は次の書類を準備しましょう。
- 遺言書又は遺産分割協議書の写し・相続税額の見込み額を記載した書類
- 相続認定申請基準年度の決算書類
- 被相続人・相続人・その他の一定の親族の戸籍謄本等
特定事業承継税制の必要書類
共通および一般に関する書類に加え、特例承継計画または確認書が必要です。
ただし、申請する間に計画書に記載した特例後継者に追加・変更がある場合、変更申請書を提出します。
その他、既に計画変更申請し確認を受けているならば、その変更後の確認書を添付します。
事業承継税制に関する2つの注意点
こちらでは、事業承継税制の注意点についてご紹介します。
申請が認められても特例には適用期限があり、年次報告も必要な点に注意です。
- 特例事業承継税制の適用期限はいつまでかをよく確認する
- 年次報告はきちんと提出を
特例事業承継税制の期限はいつまでかをよく確認する
一般の場合と異なり提出期限および適用期間が限定されている点に注意しましょう。
なぜなら、特例の場合は特例承継計画の提出が2024年3⽉31⽇まで、適用期間は2027月12月31日までとなっています。
2022年現在、たとえ特例承継計画の提出期限へ間に合い本税制が利用できても、適用期間は5年程度であり、更に特例の適用期限延長が認められるかは現時点で不透明です。
年次報告はきちんと提出を
税務署への申告期限後5年間は毎年1回、都道府県に年次報告をしなければいけません。
なぜなら、納税猶予要件を引き続き満たしているか都道府県が確認するためです。
この報告を忘れたり、納税猶予要件が満たされたいなかったりする場合、猶予は取り消されてしまうので、余裕をもって年次報告書の作成を行いましょう。
まとめ:事業承継税制はメリット・デメリットの双方を理解しておくべき
当記事の内容をまとめます。
- 事業承継税制が認められれば、大幅な納税猶予や納税免除も可能
- ただし、特例事業承継税制には期限がある
- 事業承継税制の利用が認められても、油断すると取り消しとなる場合もある