中小企業の事業承継問題とは?問題の背景や解決策を現役税理士が徹底解説
✔当記事はこのような方に向けて書かれています
「事業承継問題を放置するとどうなるかについて知りたい」
「事業承継に失敗して、廃業や従業員の解雇という事態は避けたい」
「事業承継問題の解決策を知りたい」
✔当記事を通じてお伝えすること
- 事業承継を放置するとどうなるのか
- 事業承継では、事前準備が大切
- 事業承継の方法
当記事では、事業承継に伴うリスクだけでなく、その解決策やどこに相談すべきかまでご理解いただけます。
ぜひ最後までご覧ください。
中小企業の事業承継が進まない背景と2025年問題
中小企業の経営者の皆さんは、現在事業承継に悩んでいるかもしれません。
こちらでは、事業承継が進まない背景について解説していきます。
- 企業の現状:2025年問題
- 事業承継が進まない理由4選
企業の現状:2025年問題
日本企業の現状と2025年問題についてまずは見ていきます。
なぜなら、今あなたが悩んでいることは、実は日本全体で起こりうることかもしれないからです。
中小企業庁が発行している「中小企業白書」において、次のような報告がなされています。
- 1995年:経営者の年齢は47歳前後が最多
- 2025年:30年前最多だった経営者が、平均引退年齢70歳を超えてしまう(約245万人)
今後より多くの企業が、引退後の事業引き継ぎに悩まされることが予測できるのです。。
事業承継が進まない理由4選
後継者が決まらずに、事業承継が進まない理由は以下のとおり。
- 経営状態が苦しく自分の代で廃業を考えている
- 経営者本人が健康で、まだまだ第一線で働けると思っている
- 身近に後継者がいない
- 後継者の育成不足
大きく分ければ、「まだ事業承継が必要でない」とのお考えや、「事業承継を考えているが適切な後継者が見つからない」という2つです。
事業承継が進まないとどうなるのか?
事業承継が進まないと、次のような事態が想定されます。
- 多額の廃業費用がかかる
- 従業員の雇用の喪失
- 技術・ノウハウが失われる
それぞれのリスクについて見ていきましょう。
多額の廃業費用がかかるリスク
事業承継を行わず廃業した場合は、経営者に多額の負担がかかる可能性があります。
なぜなら廃業するには次のような出費を伴うからです。
- 負債(借入金等)を完済する
- 従業員に退職金を渡す
- 会社の設備や機械類の他、原材料・在庫品等の廃棄処分費用
- 廃業手続き等の諸費用
- 事業所が賃貸だった場合は原状回復ための費用
そのため、廃業費用は数億・数千万円に上るケースも想定されます。
手元にある資金で廃業費用を賄えない場合、経営者個人の財産の処分・廃業後の返済で補填する事態となるでしょう。
従業員の雇用が喪失するリスク
事業承継が行われず廃業すると、大勢の従業員とその家族が路頭に迷うリスクがあります。
なぜなら後継者未定のままで、仮に245万人のうち、半数の経営者が廃業した場合、累計で650万人の雇用が失われると予測されるからです。
雇用を失った従業員全員が別の会社等に再雇用されるとは限らず、従業員・家族の生活に深刻な影響を及ぼす可能性も考えられます。
自社の培った技術・ノウハウが失われるリスク
廃業により、経営者・従業員が力を合わせて培ってきた独自の製品や技術、ノウハウ等が消滅します。
なぜなら承継相手がいないと製品や技術等は廃業以降、誰にも引き継がれないからです。
そのため、取引先や顧客が製品・サービス等を取得できなくなり、迷惑を被る事態も想定されます。
中小企業の事業承継対策について
廃業により発生する様々なリスクを回避するため、事業承継を進める必要があります。
この事業承継のための対策は一つだけではありません。
- 親族の誰かに引き継ぐ
- 優秀な従業員に引き継ぐ
- 第三者に引き継ぐ
親族の誰かに引き継ぐ
経営者の後任として親族の誰か(配偶者やお子様など)に事業承継する方法があります。
親族に引き継ぐメリットは次の通りです。
- 早くから引き継ぎの準備ができる
- 会社の経営方針や強みなどを既に把握している
- 他企業で学んだ経験があれば、新たなノウハウを導入し、社内の革新等が図れる
ただし、後継者としての資質を厳しくチェックしなければならず、経験やスキルのないまま後継者となると、社内の従業員等の反発を招くおそれがあります。
まず親族を後継者とする場合、本人の意思を聞いたうえで経営者となるための教育、そして社内での経験を積ませるべきでしょう。
優秀な従業員に引き継ぐ
自社内で優秀かつ経験豊富な従業員に事業承継する方法があります。
従業員に引き継ぐメリットは次の通りです。
- 社内の経営方針や技術・ノウハウ等を熟知している
- 他の従業員に慕われる存在ならば引き継ぎの混乱も抑えられる
ただし、長年従業員として雇われ経験豊富でも、経営者と同じくらいの年齢なら退職の意思を固めている場合もあり得ます。
また、株式の取得方法は現金による買取りとなる場合が多く、その資金を用意できるかどうかは大きな課題です。
第三者に引き継ぐ
親族や従業員以外の他社に事業を承継する方法があります。
第三者に引き継ぐメリットは次の通りです。
- 会社の技術やノウハウを維持・継続できる
- 他社に引き継いだ場合は潤沢な資金を獲得できる
- 従業員の雇用を維持できる
M&Aなどの方法で第三者(買い手)に会社を売却、子会社になる等の方法で事業の継続が可能です。
また、買い手から潤沢な資金を受け取れるので、経営者は大きな利益を獲得できます。
ただし、買収される側(売り手)の従業員などが待遇等の面で、買収する側(買い手)に対し反発する可能性もあるでしょう。
事業承継を成功させるポイントについて
こちらでは、事業承継を成功させるポイントについて解説します。
なぜなら、自社の経営状態や後継者の有無に応じ、ベストな方法を選択することが大切だから。
- 経営や自社のノウハウ、資産の引き継ぎを考える
- 事業承継を周知させる
- 公的な支援制度を利用する
経営や自社のノウハウ、資産の引継ぎを考える
後継者へ引き継ぐ自社の経営方針や技術、ノウハウそして株式譲渡をどうするのかについて検討します。
それぞれを正しく引き継ぐのは、簡単ではありません。
なるべく混乱を招かぬよう、自社・後継者の状況に合わせて進めていきましょう。
経営理念・技術を後継者と共有する
経営者が培ってきた経営理念や技術を後継者と共有します。
なぜなら、後継者が業務に必要なノウハウを理解していなければ、事業を形ばかりで承継しても社内の従業員から反発を招いたり、事業経営が混乱したりするおそれがあるからです。
経営者が後継者教育の時間をしっかり設け、丁寧に教え込んでいくことが必要です。
もし以下のような後継者であれば、スムーズかもしれません。
- 会社を継ぐと決めて、ずっと業務を行ってきた親族
- 会社に長年勤務してきて経験豊富、かつ人望も厚い従業員
後継者となる人が、自社の経営理念や技術を十分理解している状態なら、事業承継に支障は出ないはずです。
後継者への株式譲渡はタイミングを考えて
後継者に事業承継しても、十分な会社経営ができると判断したら株式を譲渡します。
なぜなら、株式を保有していなければ、会社にとっての重要な決断ができないから。
しかし、株式譲渡の手続きを行ったとしても、後継者となる人物が他の従業員や取引先等に認められなければ、次のような事態も想定されます。
- 従業員が会社を辞める
- 取引先から以後の取引をしてもらえない
株式の譲渡は後継者としてふさわしい人物として、周りに認知されたかどうかで判断しましょう。
事業承継を周知させる
経営者が事業承継する意思を、タイミングを見計らい役員や株主、従業員そして取引先などへ明示します。
事業承継の事実も告げず手続きを進めたら、社内外で混乱するおそれがあるからです。
自社に関係する方々へ一斉報告するのではなく、関係者ごとに分けて周知します。
- 後継者候補に報告:経営者が事前に事業承継したい意思を告げ、同意させる
- 親族・役員・株主に報告:後継者を決めた事実を告げ、株式譲渡等の手続きに進む
- 従業員に報告:株式譲渡や登記変更等の手続き後、次の経営者を周知させる
- 取引先に報告:新たな経営者就任後、速やかに取引先へ挨拶状等を送る
経営者と近い人から、順番に事業承継する旨を周知させていきます。
公的な支援制度を利用する
事業承継する場合は公的な支援制度を積極的に活用しましょう。
なぜなら、事業承継には株式・資産の取得や税金の納付等、様々な費用がかかるからです。
政府は事業承継の費用負担を軽減できるよう、助成制度や税制上の優遇措置を講じています。
事業承継の助成制度について
中小企業庁が毎年公募している制度として、「事業承継・引継ぎ補助金」が活用できます。
事業承継やM&Aを目指す中小企業に最高500万円が補助されます。
以下の3つの類型で申請可能です。
- 事業承継等を契機とした経営革新事業:上限500万円以内
- M&Aの専門家等を活用する専門家活用事業:上限400万円以内
- 廃業・再チャレンジ事業:上限150万円以内
自社のニーズに応じた補助が利用できます。
事業承継の優遇税制について
贈与税・相続税の負担が気になる場合は「法人版事業承継税制」を活用しましょう。
後継者である受贈者等が、贈与税・相続税を免除または猶予される措置です。
この措置では次の税制上の優遇措置が受けられます。
- 事業承継で後継者が取得した自社株式に課される贈与税・相続税の納税猶予
- 一定期間にわたり要件を満たすと猶予された税額が免除
後継者の納税負担を軽くする効果が期待できます。
事業承継の悩みや課題は専門家と共に解決
事業承継を成功させるには専門家のアドバイスも有益です。
事業承継に関するノウハウをうかがい、円滑に手続きが進められることでしょう。
- M&A仲介会社
- その他の専門家・機関
M&A仲介会社
特に第三者(他企業)への事業承継を考えているなら、M&Aを専門に行う会社へ相談し、諸手続きを依頼するのも良いでしょう。
相談から買い手の紹介、事業承継契約の締結までトータルでサポートしてくれるはずです。
ただし以下のようなデメリットもあります。
- M&A前提で話しが進んでいく
- M&Aのコンサルティングや制約について費用が発生する
- 仲介会社によっては、数少ない買い手側での提案になってしまうことがある
相談先としては間違いなく検討すべきではありますが、きちんとデメリットも理解したうえで相談してみましょう。
その他の専門家・機関
他にも金融機関や弁護士、税理士などに相談が可能です。
次のようなサポートが期待できます。
- 金融機関:主に地方銀行等で事業承継の相談を受付、専門家を紹介してくれる
- 商工会議所:事業承継の相談、商工会議所を通じて他社との交流も可能
- 公的機関:事業承継・引継ぎ支援センター等で無料相談が可能
- 士業専門家:事業承継とかかわる法律の問題は弁護士、課せられる税金に関しては税理士へ相談可能
とくに今後も長く付き合っていく担当者であれば、長期的な視点での提案をしてくれることでしょう。
まとめ:中小企業の事業承継問題は、日本全体の課題
当記事の内容をまとめます。
- 事業承継問題を放置すると経営者ばかりか、従業員にも深刻な事態となる
- 自社に合った事業承継方法を行えば、更なる自社の発展が期待できる
- 事業承継は専門家のアドバイスを受けながら進めるのが成功のポイント
事業承継問題はもはや、日本全体の課題です。
今後はますます後継者に悩み、事業を継続するかの判断に迫られる経営者も多いと予測できます。
ほかの方が直面して大事となるまえに、できる限りの事前準備がおすすめです。
また、事業を継続していくのなら、今後も長く付き合うパートナー的な存在を作っておくと心強いです。
西山税理士事務所も今後30年以上を見据えて、経営者様の皆様とともに歩んでいければと思っています。