【簡単】繰延税金負債・資産についてわかりやすく事例付きで解説
✔当記事はこのような方に向けて書かれています
「繰延税金負債って何のこと?」
「繰延税金負債の具体例が知りたい」
「繰延税金資産と繰延税金負債の違いは何?」
✔当記事を通じてお伝えすること
- 繰延税金負債の基礎知識
- 繰延税金負債の事例
- 繰延税金負債と資産の関係
当記事では、繰延税金負債の基礎知識はもちろん、具体的な事例や繰延税金資産との関係まで徹底的に解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。
繰延税金負債の基礎知識
こちらでは、税効果会計や繰延税金負債の基本をお伝えします。
なんとなく理解したつもりでいると、大事なときに辻褄が合わなくなってしまうのです。
- 税効果会計とは?
- 繰延税金負債の使いどころ
- 繰延税金負債が適用となる会社
税効果会計とは?
税効果会計とは、企業会計上の収益または費用と、税務上の益金または損金の差異を調整することを目的に行う手続きです。
会計上の税引前当期純利益と税務上の課税所得は、計算方法が異なるため、法人税等に差異が生まれます。
この差異を修正しないと、企業の損益計算書は、会社の経営成績を正しく反映させることができません。
企業の当期純利益、実際の財務状況を正しく反映させるために、税効果会計を適用させる必要があります。
例えば、企業が持っている株が値上がりして含み益が1,000円ある場合、本来であれば、売却していないので利益は発生していないため税金はかかりませんが、将来売却したときには税金がかかりますので、このときにかかる税金を会計上評価するというものです。
税効果会計を適用すれば、課税されたときではなく、その時点で税金が引かれたものとして当期純利益を計算しますので、適切な企業の経営成績を知ることができます。
繰延税金負債の使いどころ
繰延税金負債は税効果会計を適用している場合に使用する勘定科目です。
税効果会計を適用すると、将来の法人税等の支払額に対する影響を表示できます。
将来、法人税等の支払額が減るのであれば『繰延税金資産』、増えるのであれば『繰延税金負債』を計上します。
繰延税金負債の計算方法は、将来、差異が解消されるときに課税所得を計算する際に加算される差額に法定実効税率をかけて金額を計算します。
例えば、含み益が1,000円ある有価証券がある場合、これに法定実効税率(30%で計算します)をかけると、繰延税金負債は300円となります。
繰延税金負債が適用となる会社
すべての企業において、繰延税金負債が適用されているわけではありません。
なぜなら、税効果会計の導入が義務づけられている企業とそうでない企業があるためです。
税効果会計の導入が義務づけられている企業は、具体的に以下の3つです。
- 上場企業(上場していなくても、子会社は強制的に適用されます)
- 会計監査人を設置している非上場企業
- 金融商品取引法の適用を受ける非上場企業
中小規模で上場をしていない会社は、税効果会計を導入する義務はなく、任意となっています。
税効果会計が導入されていないと、損益計算書が業績を正しく反映しておらず、金融機関や投資家が財務状態を理解できません。
そのため、税効果会計の必要性のある企業に繰延税金負債が適用となっています。
繰延税金負債5つの事例
ここでは、繰延税金負債が生じる事例を紹介します。
繰延税金負債が生じるケースは多くありません。
なぜなら、税務上の益金は会計上の利益よりも早期に計上されるため、利益を益金に調整することは実務上少ないためです。
- その他有価証券評価差額金
- 積立金方式による圧縮記帳
- 繰延ヘッジ損益
- 退職給付引当金
- その他の準備金·積立金
その他有価証券評価差額金
その他有価証券評価差額金は、その他有価証券の時価評価額に対する相手勘定科目です。
その他有価証券とは、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式、関連会社株式以外の有価証券を指します。
その他有価証券を時価評価したときに含み益が生じていた場合、税金を考慮しなければ価値が過大評価されてしまいます。
そこで、含み益に対する税金部分は繰延税金負債を計上します。
その他有価証券を時価評価し、含み益が1,000円生じていた場合の仕訳
その他有価証券 1300 | その他有価証券評価差額金 1000 |
繰延税金負債 300 |
積立金方式による圧縮記帳
圧縮記帳は、国庫補助金、工事負担金などで有形固定資産を取得した場合に、その補助金などに相当する金額を固定資産の取得額から控除し、課税の繰延を目的として行うものです。
圧縮記帳の方式は直接減額方式と積立金方式の2種類がありますが、積立金方式の圧縮記帳の場合に繰延税金負債が発生します。
会計上、積立金方式の圧縮記帳が好ましいとされています。
繰延ヘッジ損益
繰延ヘッジ損益は、デリバティブ取引について期末時点でのヘッジ対象(有価証券・商品など)の損益とヘッジ手段(デリバティブ)の損益の差額を繰り延べるときに使用する勘定科目です。
ヘッジ対象とヘッジ手段に関わる損益を同一会計期間に反映させる処理をヘッジ会計といい、ヘッジの効果をきちんと財務諸表に反映できます。
ヘッジ手段であるデリバティブ取引で利益が発生している(繰延ヘッジ利益が生じている)場合に繰延税金負債が発生します。
退職給付引当金
将来に見込まれる退職金のうち、現時点までに発生している金額を見積もり計上したものを退職給付引当金といいます。
ほとんどの場合、退職給付引当金が負債計上されているために、繰延税金資産が計上されています。
しかし、退職給付債務より年金資産が大きい場合などに退職給付引当金がマイナスになることがあり、その場合に繰延税金負債となります。
その他の準備金·積立金
将来、多額の支出や損失が見込まれている場合、準備金や積立金を純資産として計上しますが、積立金方式による圧縮記帳と同様に、税金の繰延が行われます。
この場合にも繰延税金負債となります。
繰延税金負債と資産の関係
繰延税金負債と繰延税金資産は会計上、法人税等の支払額が減るのであれば繰延税金資産、増えるのであれば繰延税金負債を計上します。
貸借対照表上では、繰延税金資産と繰延税金負債を相殺して表示しますが、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は相殺せずに表示します。
例えば、繰延税金資産が100円、繰延税金負債が300円であれば、貸借対照表には繰延税金負債200円と計上します。
繰延税金負債と繰延税金資産は税務上の差異を表示するものですが、違いは資産か負債かの違いなのでセットで理解しましょう。
まとめ
当記事の内容をまとめます。
- 繰延税金負債は、税効果会計で使用する勘定科目
- 繰延税金負債の事例のほとんどはその他有価証券評価差額金と積立金方式による圧縮記帳によるもの
税効果会計は、会計上の利益と税務上の所得の差を調整するための手続きですが、このときに繰延税金負債が計上されることがあります。
財務状況を正しく反映させた財務諸表を公開する必要のある大企業では、繰延税金負債が計上されることがありますが、中小企業は任意です。
繰延税金負債が生じるケースは限定的で、ほとんどがその他有価証券評価差額金と積立金方式による圧縮記帳によるものです。