【個人事業主の事業承継】手続きや活用すべき制度を徹底的に解説
✔当記事はこのような方に向けて書かれています
「個人事業主の事業承継方法が知りたい。」
「法人と個人で事業承継方法って違うのだろうか?」
「個人で使える事業承継税制ってあるの?」
✔当記事を通じてお伝えすること
- 個人事業主と法人の違い
- 個人事業での事業承継手続きについて
- 個人事業主の事業承継で活用できる制度
当記事では、個人事業主の事業承継方法や手続きについてはもちろん、事業承継で使える制度までご紹介します。
ぜひ最後までご覧ください。
個人事業主とは?|法人との違いについて
ここでは、個人事業主とは何か、法人との違いについて解説します。
個人事業主と法人では、あらゆる面において異なるからです。
- 個人事業主とは?
- 個人事業主と法人の違い
個人事業主とは?
個人事業主とは、法人を設立せず個人で事業を行う者のことです。
個人事業主になるために特別な資格は必要なく、とくに欠格事由のような定めも存在しないため、個人で事業を行っていれば誰でも個人事業主になれます。
ただし、開業から1か月以内に税務署に開業届を提出することが義務付けられています。
個人事業主と法人の違い
個人事業主と法人の違いはいくつかあります。
たとえば、以下のような違いがあります。
- 設立時にかかる費用
- 廃業の際の手続き
- 社会的な信用度
- 自身への報酬を経費として計上できるかどうか
それぞれ見ていきましょう。
設立時にかかる費用
法人の場合、設立時には会社設立登記や定款の作成が必要です。
その際登録免許税だけでも15万円以上かかり、登記や定款の作成を司法書士などの専門家に依頼する場合はその分の費用もかかります。
一方、個人事業主の場合は税務署に開業の届けを提出するだけで手続きが済み、登記も不要で費用もかかりません。
廃業の際の手続き
法人の場合、届けを提出しなければならないだけでなく解散登記が必要です。
このときも設立時同様に登録免許税などの費用がかかります。
個人事業主の場合は、廃業の届出をするだけで手続きが完結します。
社会的な信用度
法人と個人事業主とでは、社会的な信用度に大きな差があります。
法人は登記されているのに対し、個人事業主は登記されておらず、確実な情報が得られにくいためです。
そのため法人のほうが社会的な信用度は高く、個人事業主は法人よりもどうしても信用を得にくい部分があります。
法人の場合、金融機関からの融資を受けやすいといった点も有利です。
自身への報酬を経費として計上できるかどうか
法人は、自身へ支払う報酬を経費計上し、給与所得として控除できます。
しかし個人事業主の場合は、そもそも給与という概念がなく、自身への報酬を経費として計上できません。
事業承継の手続き
事業承継の手続きには、現経営者が行うべきものと後継者が行うべきもの、必要に応じて行わなければならないものがあります。
ここでは、事業承継に関する手続きについて解説します。
- 現経営者が必ず必要な手続き
- 後継者が必ずおこなうべき手続き
- そのほか確認すべき手続き内容
- 税務の申告と納税
現経営者が必ず必要な手続き
事業継承の際、現経営者が必ずしなければならない手続きはいくつかあります。
現経営者が手続きを終え、後継者が新たに事業開始などの手続きをすることによって、初めて事業が承継されるためです。
現経営者が税務署に提出すべき届出書は以下のとおりです。
- 事業廃止届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書
- 消費税の事業廃止届出書
事業廃止届出書は、事業の廃止から1か月以内に提出する必要があります。
現在青色申告をしている場合は、事業廃止届出書と一緒に青色申告の取りやめ届出書も提出しましょう。
課税事業者である場合は、消費税の事業廃止届出書も必要です。
後継者が必ずおこなうべき手続き
後継者にも、必ず行わなければならない手続きがあります。
以下の書類を提出し手続きを行うことで、事業が承継されます。
- 事業開始届出書
- 青色申告承認申請書
- 青色事業専従者給与に関する届出書
税務署に事業開始届出書を提出し、青色申告を希望する場合は青色申告承認申請書も事業開始届とともに提出します。
家族が事業を手伝う場合は、青色事業専従者給与に関する届出書も提出しましょう。
そうすれば、給料として支払った分を経費として処理できます。
そのほか確認すべき手続き内容
そのほか、必要に応じて手続きを行わなければならないものもあります。
- 社会保険労働保険
- 営業の許認可関連
- 屋号の登記
- 賃貸物件の名義変更・再契約
家族以外の者を雇用する場合は、基本的に社会保険や労働保険への加入が必要です。
手続きは、それぞれ年金事務所や労働基準監督署で行います。
営業の許認可関連については、市町村の担当窓口に問い合わせてみましょう。
屋号の登記に関しては、管轄の法務局か司法書士に相談するとよいでしょう。
事業に使用している不動産が賃貸物件である場合は、ケースに応じて名義変更や再契約をする必要があります。
税務の申告と納税
ケースによっては、税務の申告や納税が必要です。
一般的に、事業を承継する際は、店舗や工場、機械などを後継者が現経営者から買い取ったり、贈与を受けたりするためです。
承継の方法や金額によっては、納税義務が生じます。
納税義務が生じる場合、税務の申告と納税が必要です。
個人事業主の事業承継で引き継ぐもの
個人事業主の事業承継で引き継ぐものを見ていきましょう。
引き継ぐものを明確にすることで、準備方法もわかりやすくなります。
- 経営権の引き継ぎ
- ブランドやノウハウの引き継ぎ
- 顧客・取引先の引き継ぎ
- 事業用資産の引き継ぎ
経営権の引き継ぎ
事業承継によって、事業の経営権そのものが引き継がれます。
経営権は、現経営者が廃業し、後継者が新規に事業を開始することで承継されます。
ブランドやノウハウの引き継ぎ
ブランドやノウハウもすべて引き継がれます。
引き継ぎは、時間をかけてしっかりと行う必要があります。
引き継ぎが不十分だと、中身の伴わない名ばかりのものになってしまうためです。
たとえば飲食店で、代替わりして味が変わったからと常連が離れてしまうのと同じように、ブランドやノウハウがうまく引き継がれていないことに気付くと、顧客は離れてしまいます。
顧客・取引先の引き継ぎ
顧客や取引先も事業承継によって引き継ぎます。
これらの引き継ぎは、とくにしっかりと行う必要があります。
個人事業は、現経営者個人の仕事ぶりや人柄によって築かれる関係が多く、現経営者だからこそ取引をしていたという場合も多いことが予想されるためです。
挨拶回りをするなどしてしっかりと引き継ぎをしておかなければ、承継した途端客離れが起きてしまうため、注意しなければなりません。
事業用資産の引き継ぎ
事業承継によって、事業用資産もすべて引き継ぎます。
事業用資産には、以下のものが該当します。
- 店舗や工場、それらの敷地となる土地などの不動産
- 事業に用いる機械
- 事務用品などの備品
- 債権や債務
事業用資産には、目に見えるものだけでなく債権や債務も含みます。
なお、不動産を贈与や売買によって承継する場合は、評価額によっては贈与税や所得税がかかることがあります。
事業承継の方法3選
事業承継をするには、3つの方法があります。
- 贈与
- 相続
- 売却
贈与
現経営者と後継者間で贈与契約を結び、無償で事業用資産を承継する方法です。
ただし無償とはいっても、贈与税が発生する場合は、後継者はそれを支払わなければなりません。
評価額によっては高額になることもあるため、後継者には支払えるだけの資力が求められます。
相続
承継する相手が相続人に限られますが、相続による事業承継も可能です。
なぜなら、事業資産も相続財産になり得るためです。
現経営者の死亡によって相続が開始し、その相続人が相続財産として事業を承継します。
ただし、何人も相続人がいる中で、1人の相続人だけがすべての事業用資産を相続するとなると、遺産分割協議がスムーズにいかない可能性があります。
トラブルを避けるために、遺言書を作成しておくなどして、前もって対策をしておいたほうがよいでしょう。
売却
売却による事業承継も可能です。
身内に後継者がいない場合によく用いられる方法で、別の企業や従業員などの第三者が買い手となるケースが多い傾向にあります。
事業売却により現経営者は金銭的に潤いますが、買い手を見つけることは困難で、信用できるかどうかの見極めも容易ではありません。
事業を売却することで得られた利益は課税対象であるため、現経営者には納税義務が発生します。
個人事業主の事業承継で活用すべき制度
個人事業主の事業承継で活用すべき制度を見ていきます。
上手く活用できれば、準備資金が抑えられるなどのメリットがあるからです。
- 個人版事業承継税制
- 中小企業における経営の円滑化に関する法律
- 相続時精算課税制度
- 小規模宅地の特例
個人版事業承継税制
個人版事業承継税制とは、一定の事業用資産を贈与または相続によって引き継いだ場合に、事業用資産の取得にかかる贈与税や相続税の納税を猶予するという制度のことです。
個人版の事業承継税制では以下に当てはまると納税義務が発生します。
- 事業の廃止
- 特定事業に該当
- 事業所得がゼロになる
- 青色申告が取り消された場合
- 継続のための届出書を期限内に提出しなかった場合
詳細は専門家に相談のうえ進める必要があります。
西山税理士事務所へのお問合せはこちらです。
中小企業における経営の円滑化に関する法律
中小企業における経営の円滑化に関する法律とは「事業承継における融資・保証制度」のことです。
都道府県知事の認定を受けることを前提に、融資や信用保証といった支援を受けられます。
なお、融資は個人、信用保証は個人と中小企業者を対象としています。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、原則60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対して財産を贈与した場合に選択できる、贈与税の制度のことです。
合計2,500万円までであれば贈与税がかかりませんが、この制度を使う場合、110万円以下の贈与に関しても贈与税の申告が必要になることや、同じ人からの贈与に対しては暦年課税制度が使えなくなるなどのデメリットも存在します。
小規模宅地の特例
小規模宅地の特例とは、故人が居住していた住宅の敷地である土地を、その配偶者や同居の親族が相続した場合に、土地の評価額を80%下げられる制度です。
土地の評価が下がることで土地にかかる税金を抑えられ、遺された家族にかかる負担を減らせます。
ただし、小規模宅地の特例が適用されるかどうかは要件があり、すべてのケースで利用できるというわけではありません。
そのため、事前に要件があるかどうか確認する必要があります。
まとめ:個人事業主の事業承継は準備が大切
当記事の内容をまとめます。
- 個人事業主の事業承継は、資産そのものが事業承継対象となるところが、法人との違い
- 事業承継の手続きは複雑なので、専門家と相談しながらがおすすめ
- 事業承継に関わる制度を活用すれば、準備資金が少なくできる可能性がある
事業承継は日本全体が抱える問題のひとつです。
国や自治体としても、事業承継を円滑に進めるための施策を準備しています。
うまく活用しながら、事業承継を進められると、次のステップへスムーズに進めるでしょう。